暴露本のハシリとも言える、ダン池田著「芸能界本日モ反省ノ色ナシ」を読む。
裏表紙に
レコード大賞を辞退する歌手が続出するのは、いったいぜんたい、どんな理由があるのか?かつて私たちに生きる夢と希望を与えてくれた歌謡曲が、近ごろなぜ心に響かなくなってしまったのか?そこには、芸能界の腐敗と堕落があるにちがいない。その芸能界に30年間生きてきた著者=ダン池田は、ご存じニューブリードのバンドマスター。芸能界の裏も表も、上も下も、内も外も、そして裏の裏も、すべてを知り尽くした、文字どおりの生き辞引的存在である。その彼が、実はずっと日記をつけていたのだ。そこには、芸能界の内側が綿々と、そして克明に綴られている。本書は、その日記を、過去一年間さかのぼって編集したものである。芸能界にまつわるいろいろな疑問は、これを読めばすべて氷解するはずだ。芸能界をパニックにおとしいれる衝撃の書である。
と書かれているとおり、かなり芸能界に辛辣で批判的な内容のこの本は70万部も売り上げ、結果、ダン池田は芸能界から追放される羽目になる。干される、というやつね。
日記を編集したもの、ということだが、酔っ払ったダン池田がクダ巻いているのを聞かされているような読後感であり、根拠なしの邪推や愚痴みたいなのがつらつら並べられているが、現場で活躍したお方の実感でもあるので、実際に芸能界というところは金とコネと枕営業が幅を利かせている側面もあるにはあるのだろうなあ、と考えさせられなくもない、と思わなくもない。
まあ、そうやって批判している割には自分がアイドル歌手志望の子や女優と寝た、みたいなちょっとポエムがかった描写があるので、その辺のちぐはぐさがただのクダ巻いているおっさんである。かわいらしいといえばかわいらしいのだが。
この本が出版された昭和60年くらいは、電子音楽の隆盛によって、ニューブリードのような生のビッグバンドの必要性が揺らいでいた。斜陽になっているのをダン池田も肌で感じ取っていたであろう。そんな描写もある。
最近の音楽界を見まわすと、まわりがだんだん機械にうめられてきているみたいだ。エレクトリックなサウンド・コンピュータを使ったり、シンセサイザーだとか、愛情がない、感情がない音ばかり。
これからは、そういう無感情のエレクトリック・サウンドを発するロボットが演奏し、それに合わせて、いや操られて、歌手がこれも無感情に歌う、そんな音楽がもてはやされる時代になってしまいそうな気がする。
可哀想といえば可哀想な男なんだよなあ。時代の変化に対応できない頑固な職人気質といった風で。自分は一流バンドマンである、という気概を持ち合わせており、それに見合った待遇がないことも不満を募らせる原因の一つだったようだ。
新人芸能人がグリーン車で移動し、プリンスホテルの宿泊するのに対し、自分らバンドマンは普通車でビジネスホテル、という差にも憤慨している描写がある。昭和芸能界の影の功労者なのだから、これはダン池田もプライドが傷ついただろうな。
さすがダン池田、という記述もあった。
芸能プロのマネージャーがレコード尺の楽譜しか持ってこなくて、テレビサイズに合わせたものを持って来い、と憤慨。
しょうがないからイントロとか間奏とかをカットしなきゃならず、ダン池田は5、6分で検討して50人に指示する。作曲家や編曲家のイメージを壊さないようにカットしなきゃならないが、それをとっさにやらなきゃいけない、ということが書いてある。
ただの愚痴のようだが、初見の楽譜を5分で理解してしかもイメージが壊れないように尺を短く編集するってすごい能力だ。
ダン池田の鬱積する感情をぶつけられて、はあ、そうですか、大変でしたね。と相槌を打つしか他にやり方がなく、どうにも居心地の悪い思いにさせられるような本書であるが、彼が一流のバンドマンであることは数々の映像資料が証明してくれている。
晩年は埼玉で「ダン池田の店」でマスターを務めていたというが、彼の生の愚痴を聞いてみたかったな。
ダン池田は元々ラテン音楽出身。パーカッショニストでもある彼の熱いコンガ演奏、生き生きと叩いていて実にカッコ良いではないか。
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