銀河の逃避行

今、万感の思いを乗せて汽車が行く

実験精神の末に生まれたグループサウンズの珍曲たち。

GSの何が魅力って、1960年代終盤に世界中でロック・ミュージックが盛り上がり、多くの若者に支持されつつあった時に、日本も負けじと全国的に様々なバンドが結成され、もう百花繚乱のごとくであったのだが、それぞれのバンドが特色を出そうと実験精神旺盛な日本産ロックを生み出していったところである。

 

今のように情報が瞬時に行き交う訳ではないので、いろんな解釈のロックが生まれ、英米の本格的なロックを志向するバンドもいれば、民謡や演歌などドメスティックな音楽と異種交配させてオリジナルなものを作り出そうとしたり、コマーシャルな路線でルックス重視をするあまり、少女漫画に出てくる王子様のような格好をしておとぎ話の世界のような歌を歌ったり、海外の流行に敏感でR&Bやサイケデリック・ミュージックを取り入れようとしたり…。

 

本当に百の花が咲き乱れたのがグループサウンズの世界なのである。

 

極東の島国で、情報があまり届かない、というところが味噌なのであって、当時の若者が洋楽のレコードを手にしたり、FENなどラジオから流れてくる海外の曲を聴いて想像を膨らませる十分な余地があった、というのがオリジナリティーを生む重要なポイントなのだ。

 

最近、海外で日本文化を多少勘違いした形で愛でている人々を、その道の専門家の日本人が訂正しに行く、というテレビ番組をやっているが、あれなどナンセンスである。つまらないことをするな、と言いたい。まあ、なんかヤラセっぽい番組ではあるが(ヤラセそのものは否定しないけど)、想像の余地を潰してはいけない。ゴッホ東洲斎写楽の浮世絵を見てどれだけの想像を膨らましただろう。

 

というわけで、GSがいかにバラエティーと実験精神に富んでいたか、今回は極端な例を見ていきたい。

 

日本人のアイデンティティーを出すために民謡など国産文化とロックをハイブリッドさせる手法は、割と皆思いつくアイデアのようだ。いくつかレコードが残っている。寺内タケシやシャープ・ホークス、スウィング・ウエストなど日本の民謡、端歌物や俗曲、古典などをいわゆるテケテケエレキサウンドでやったりしているが、GSの民謡ものの極北といえば、ボルテイジの「汐鳴りの幻想」ではないかと思う。

 

 ボルテイジは日本人がR&Bを演奏する、歌う、ということの壁の高さに立ち向かったグループサウンズである。オーティス・レディングのようなパワフルな歌声を、橘洋介は塩辛いハスキーボイスで表現し、黒人の重厚なホーン・セクションを、柴田こうじはぶっとい音のファズギターで再現した。

彼らのステージでは、黒人のソウル音楽だけがレパートリーで、白人のロックなどはやらなかったというこだわりっぷり。

そんなボルテイジのラスト・シングルが、なぜか民謡調。やはり黒人音楽の壁を感じてしまったのだろうか?ドメスティックに回帰しちゃった。

しかし、日本海のソウルを感じるこの曲、摩訶不思議な魅力があり、非常にクセになる。「人魚との恋」を歌ったおとぎ話的歌詞はGSマナーに則っていて愛おしい。

コンプリート・ボルテイジ R&Bビッグ・ヒッツ・アルバム

コンプリート・ボルテイジ R&Bビッグ・ヒッツ・アルバム

  • アーティスト:ボルテイジ
  • 発売日: 1999/06/25
  • メディア: CD
 

 

 

ボルテイジはいわゆるカルトだが、売れた方のGS、ザ・スパイダースは多芸多才集団で、一人一人がかなりの実力を持つ。

堺正章のコメディアンっぷりと歌唱能力、井上順の朗らかな人格と司会者としての芸能人力、かまやつひろしの音楽センスの高さと流行のカルチャーへの嗅覚、大野克夫のどんな楽器もこなす天才肌、田辺昭知のリーダー力と田辺エージェンシーの経営者としての顔、井上孝之もまた作曲家やプロデュースもこなす多才なギタリスト、加藤充は目立たないけど信頼の置ける手堅いベーシストで、スパイダースの映画でちょい面白い役をこなすのがツボだったりする。

70年には田辺昭知の代わりに前田富雄がドラマーとして入るが、この前田富雄は何年か前にテレビ東京の番組「モヤモヤさま〜ず2」に出ていた。魚屋のご主人として。

 

そんな実力派集団のスパイダースは、大衆路線のヒット曲もあれば、ロックの本場イギリスの曲そのものみたいな「ヘイ・ボーイ」みたいなオリジナル曲もこなす器用さがある。日本がもっと誇ってもいいロック集団だ。

 

そんなスパイダースだが、コメディ集団としての側面もあり、彼らの主演映画などは立派なコメディ映画としても楽しめる。堺正章や井上順の芸能界での活躍ぶりを見ると分かる通りだ。マチャアキのかくし芸やインディ・ジューンズを覚えているかい?

そんなスパイダースのシュールなコミックソング、「オツム・コン!コン!」をどうぞ。

 

ザ・スパイダース ツイン・ベスト・セレクション

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明治百年、すぱいだーす七年 PLUS アルバムNo.5

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GSの魅力、続いては「なんだこりゃ?」な曲。

実験精神は時として珍曲を生み出す。ザ・クーガーズの「テクテク天国」は歌謡曲なのか、ロックなのか?「曲」ではあるのだけど。

ファズが鳴っているのはポイント高いし、「バツグン!」の後にバスドラとシンバルがドシャーンと鳴るブレイクも惹きつけられるものがあるのだが。


ザ・クーガーズ 「テクテク天国」 1967

ちなみに「テクテク天国」とは歩行者天国の事を歌った歌とのことだ。

ホコ天が歌詞の題材になるのもすごいが、このザ・クーガーズは他のGSと差別化を図るために、スコットランドの民族衣装、キュロットスカートを身につけて登場するのである。発想が面白いなあ。

 

 

というわけで、三つだけの紹介になったが、GSは日本のロックの黎明期の混沌を素直に音で表してくれているし、なんでもやってみよう、という精神とか、勘違いや思い違いが思わぬサウンドを生み出したりしていて、本当に面白いのだ。GS界に不思議な魅力のある曲はまだまだたくさんある。

では、最後に普通に超かっこいいザ・タイガースの「割れた地球」を貼って、以上。


ザ・タイガース 割れた地球

 

究極のカルトGS Vol.1 ~GS 50周年記念スペシャル・エディション

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  • アーティスト:V.A.
  • 発売日: 2016/11/11
  • メディア: CD
 

 

究極のカルトGS Vol.2 ~GS 50周年記念スペシャル・エディション

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  • アーティスト:V.A.
  • 発売日: 2016/11/11
  • メディア: CD
 

 

ザ・G.S 栄光のグループサウンズ

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  • アーティスト:オムニバス
  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: CD
 

 

 

日本ロック紀GS編 コンプリート

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  • 作者:黒沢 進
  • 発売日: 2007/09/29
  • メディア: 単行本
 

 

 

www.ruth-etting.com

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