バンドにおけるベーシストの役割はものすごく大きいのだが、音楽にあまり触れてない人にはなかなか伝わりづらい。気づかないのだ、知らず知らずベースの音に腰を振らされていることを。
ベースを鑑賞できるようになると、音楽の世界はぐっと広がる。
世界を見渡すと、個性的なベースプレイのミュージシャンはたくさんいる。モータウン・サウンドの礎、ジェームス・ジェマーソンやイギリスのブルースロックバンド、フリーのアンディ・フレイザー、モッズのアイコン、ザ・フーのジョン・エントウィッスルなどなど。
そして、日本にも個性と技術を兼ね備えたベーシストがいる。それが江藤勲と寺川正興だ。二人ともジャズ・ミュージシャンであるが、歌謡曲やCM、特撮、アニメ、ロックバンドの録音に数多く参加し功績を残した。
60〜70年代の歌謡曲で、ベースプレイが際立っている録音は、まずこの二人を疑う。疑う、ていうのも変に聞こえるが、当時のレコードには録音メンバーのクレジットが掲載されていないことが結構あるし、本人や関係者の記憶もおぼろげだったりするので、演奏者が誰なのか確定されていないものが多い。
今回は寺川正興の方にスポットを当てて、指板を上に下に自在に動き回る、エレベーター奏法と呼ばれる彼の独特なプレイを鑑賞していきたい。
全然関係ないが、エレベーターとエスカレーター、どちらもエで始まるから、日常生活で口にする前にどっちだったっけ、とちょっと考える。俺だけかな?
では、彼のベースプレイの凄さが一聴してわかるこの曲から聴いてみよう。なるべくならヘッドホンなどベース音が聞き取りやすい環境でどうぞ。
ボウリング・ブームに沸いていた頃に作られたボウリングドラマの主題歌。何年も前にツタヤでDVDを借りて見た覚えがあるが、さわやか律子さんが出ていたことと、この主題歌のベースの凄さしか覚えていない。
ベースの音がものすごい音数で上に下に行ったり来たりしているのがお分かりになると思う。テンポもそこそこ速いのに、これだけの音を詰め込むことができるのはそれだけで賞賛に値する。
ただ、音数だけ詰め込むなら、そこいらのベーシストにもできる。
おそらく、譜面にはコードだけしか書かれていなかったことだろう。寺川正興はジャズマンなので、コードから使える音を一瞬で判断して展開し、それでもまだ余裕があるからたまに細い休符をつけたり、シンコペーションしたり、そのたくさんある引き出しから音の並びに変化をつけたり、他にもあるかもしれないけれど、これだけの遊びを詰め込んでいる。
こんなベーシストは全世界探したっていない。そのオリジナリティは敬服に値する。
お次にこれを聴こう。
Aメロのほんわかふわりな譜割のベースは譜面で指定されていたのだろうが、多分サビはアドリブと書かれていたのだろう、ベース音が水を得た魚のように縦横無尽にピチピチ動き回る。
ちなみにB面のバイ・バイはサビがクールでかっこいいグルーヴ歌謡。
ところで、60〜70年代のベースのアタック音はペタペタしていて、それが心地よいのだが、このサウンドを現代に忠実に再現した例を私は知らない。どういう音作りをしているのか。単にピック弾きにしてトーンをいじったところでこの音は出ない。
当時のテレビやラジオでの再生環境(低音が聞き取りにくい)を考慮して、ベースのペタペタしたアタック音が聞こえるように音作りしているのかもしれない、と考えたりする。
次はこちら。見目麗しい岡崎友紀の「風に乗って」。
和モノDJ人気曲で、ハッピーで万博サウンドな曲調と、始終パタパタぽこぽこしてるパーカッション、そしてうねりまくる寺川正興ベース。イキのいいドラムスは石川晶だろう。NHKの教育番組、「ワンツー・どん」の石川のおじさん、その人だ。
この曲、実に見事な完成度なのだけど、作詞の高木飛鳥という人、これは岡崎友紀主演のドラマ、「おくさまは18歳」の役名で、つまり岡崎友紀自身だ。しかし、作・編曲の嶋田タカホって誰だ?ポッと出の人にこんな曲作ったりアレンジしたりできないと思うが。有名作曲家の変名?謎だ。
お次は赤塚不二夫のギャグ漫画、「天才バカボン」、そのアニメ主題歌。
ギャグアニメの主題歌がこんなにグルーヴしていて、果たして子供の教育上いいのだろうか、と心配になるくらいだ。作曲は渡辺岳夫。
渡辺岳夫作品もかなりグルーヴの度合いが高いが、この作品の主題歌も寺川正興ベース。
動画が短くて伝わりにくいけど、サビで堰を切ったようにうねり出す寺川ベース。少女アニメでこんなにグルーヴしてていいのだろうかと子供達の腰が心配になる。
他にも有名どころでは、キーヨこと尾崎紀世彦の「また逢う日まで」、和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」など、寺川ベースは日本歌謡曲界のボトムをぶいぶいとうねりながら支えている。
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