宇野誠一郎という作曲家、特にアニメの分野で多く功績を残した作曲家であるが、作品数自体はそんなに多くないものの、ジャズやクラシックを大胆に取り入れたりして、類まれなるセンスを発揮している。
だいたい、一休宗純のとんち時代劇アニメ「一休さん」の主題歌にスウィング・ジャズ曲を用意するあたり、センスが常人の理解を超えていると思う。しかし、この主題歌はミリオンセラーを記録した。あえてミスマッチを狙っていく魂胆だろうか。
作詞 山元護久 作・編曲 宇野誠一郎 歌 相内恵、ヤング・フレッシュ
木魚をパーカッションで使って「和」の雰囲気を醸し出しているが、ドラムはスウィンギー、ベースはランニングベースで4ビートのジャズである。和洋折衷というやつか。イントロのなんだかよくわからんがユーモラスなブラスはとてもキャッチー。パンチととんちが効いてる。
ちなみに、歌にクレジットされているヤング・フレッシュは、東映児童研究所に所属する子役たちで結成されたグループ。
宇野誠一郎の代表作といっても差し支えなかろう、「ひょっこりひょうたん島」の主題歌。モーニング娘。もカバーしていたっけ。これ1964年の作品なんだが、洗練されすぎではなかろうか。
かっこいいー!当時の子供は贅沢だなあ、こんなお洒落なジャズ・ナンバーを楽しむことができたなんて。
歌は前川陽子、この時13歳。フレッシュさだけではない、丁寧な表現を心がけた歌い方だ。しかもちゃんとリズムに乗ってスウィングしてる。こののち彼女は「リボンの騎士」や「キューティー・ハニー」などを歌い、アニメソング界をリードする存在になる。
トーベ・ヤンソン原作の「ムーミン」。アニメの主題歌「ねえ!ムーミン」も宇野誠一郎の作曲。
ドラムはブラシ、シャッフルのリズムをさりげなく。
歌の藤田淑子の語りかけるような歌い方、すごい表現力。本当に童話の中にトリップしてしまうかのようなドリーミーな間奏は、脳内のノスタルジー神経回路(そんなものないだろうけど)をチクチク刺激する。
子供向けだからと子供だましのものを作っても、子供には伝わる。子供向けの作品だからこそ、このハイ・クオリティ。ディズニーの名曲の数々の中に紛れ込ませても遜色ないのでは。
そして、エレガントの極み、「まんがこども文庫」のオープニング、「よんでいる」。
「まんがこども文庫」オープニング 「よんでいる」 歌=堀江美都子
アニメーションがサイケデリックで、LSD感がある。これ、子供が見たらトラウマだよなあ。曲は本当にエレガントでうっとりしてしまう。「よんでいる とびらをあけると」という歌詞もやはりバッド・トリップな感じ。
そして、私が宇野誠一郎の作品で愛してやまないのが、「ふしぎなメルモ」。もう、奇跡というか神の御業のような1曲だと思う。
なんとジャンル分けしたら良いのか、今までに出会ったことのないような感触の曲調。一体何から着想を得たらこんな曲が書けるのだろう。ひょっとしたら宇野誠一郎の発明なのかもしれない。
出原千花子による舌ったらずな歌声が逆に効果を生んでおり、「知ってる………かい」「秘密だ………よ」と文節が思わぬところで途切れるのも大きなフックとなって耳に残る。
スウィートなイントロといい、かっこいいストリングスのメロディーといい、はたまたファンク・ミュージックのようにブラスが短く合いの手を打っていたり、斬新なところだらけの、本当に素晴らしい曲だ。
とまあ、私の好きな宇野誠一郎の作品を並べてみたが、他にも「W3」とか「山ねずみロッキーチャック」、「アンデルセン物語」など、すんばらしくクオリティの高い作品が多い。私が幼い頃に聞き親しんだ童謡の「アイアイ」も、宇野誠一郎の作品だ。
宇野亜喜良画伯による素晴らしいジャケット・デザインの作品集CDも出ている。