加瀬邦彦はGS出身の作曲家。人気バンド、ザ・ワイルド・ワンズに在籍しながら、「想い出の渚」をはじめとして「愛するアニタ」、「青空のある限り」などのヒット曲を作曲した。
ザ・ワイルド・ワンズというバンド名は加山雄三が名付けた。「野生児」という意味だが、その意味とは裏腹に、いかにも育ちの良さそうな湘南サウンドがこのバンドの売りだ。
彼の最初の小ヒットとなる、「ユア・ベイビー」は65年の作品。元々彼はザ・ワイルド・ワンズの前に寺内タケシとブルー・ジーンズに所属していたのだが、その頃に書いた曲だ。65年といえば、まだグループサウンズブームに火がつく前。この頃にGSの形がしっかりできている。
加瀬邦彦はブルージーンズを脱退するのだが、その理由がユニーク。ザ・ビートルズの武道館公演の前座としてブルージーンズの出演が決まっていたのだが、彼は客席からビートルズを見たくて辞めたそうだ。前座としてビートルズと共演する方がよっぽど自慢できると思うのだが。ビートルズと共演した、てものすごいワールドワイドな自慢話だな。
で、その後ザ・ワイルド・ワンズを結成。そのデビューシングルが、かの大ヒットナンバー、「想い出の渚」なのだが、B面が「ユア・ベイビー」の再録。エレキ味と野性味が消えて、とても聴きやすくなっている。
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ワイルド・ワンズ「ユア・ベイビー」
12弦ギターを駆使して、健康的で清潔感あるサウンドを構築していくワイルド・ワンズ。加瀬邦彦の書く曲の爽やかな作風。
かつて、「想い出の渚」のイメージが私の中で強すぎて、後でジュリーの「TOKIO」が彼の作曲だと知った時にはイメージの折り合いがつかず困った。
作曲家の宮川泰が、作曲を続けるように、と加瀬邦彦の才能を買ってアドバイスしたという逸話があるくらいで、絶えず作曲の勉強をして才能の幅を広げていったのだと思われる。
彼の作品を知れば知るほど、彼の作曲する曲は冒険心に富んでいる、と感じる。
加瀬邦彦が他人に書いた最初の提供曲は、ザ・タイガースの「シー・シー・シー」。
弾けたロックナンバーで、中間の「シー…」のブレイクもセクシーでユニーク。同時代の英米のロックにかなり肉薄していると思う。チャートの1位を記録。
GSブームが終焉を迎え、71年にワイルド・ワンズが解散した後は、加瀬邦彦は作曲やプロデュース業がメインとなっていく。
ZOOは、チューチュートレインの方ではなくて、ワイルド・ワンズの植田芳暁が結成したバンド。このバンドに加瀬邦彦が曲を提供しているが、バブルガムでポップな曲調で、個人的に大好き。
シングル「鳩が来る」のB面。なんて可愛い曲…!とてもキャッチーで、加瀬邦彦のソング・ライティング技術が光っている。
そしてこんなR&B歌謡も手がけている。
どちらも72年のリリース。バブルガム・ポップとR&B歌謡。これを同時期に作曲できるのはすごい器用だと思う。
72年はジュリーのソロにもずっぽり関わっている。「許されない愛」「死んでもいい」などを作曲。路線変更したのか、急にポップになったのが73年リリースのこちら。
これが当たって、沢田研二のソロ初1位を獲得する。参加ドラマー、田中清司のハイハット・プレイが決まって心地よい。
大ヒット曲、「TOKIO」もピコピコしてて大好きだが、ビートたけしのタケちゃんマンにも模されたあの有名な電飾パラシュート衣装(ジュリー本人のアイデア)に、バックバンドの井上尭之が疑問を感じて井上尭之バンドが解散した、という説もある。
カブキロックスの「お江戸-O・EDO-」というカバーが存在することも昭和に生まれた全ての紳士淑女が忘れてはいけないことの一つだろう。
「TOKIO」の次のシングルも同じ布陣で作られた。作詞;糸井重里、作曲;加瀬邦彦、編曲;後藤次利。「恋のバッド・チューニング」。80年リリース。
イカしたロックナンバーだ、と感じるより前に、ジュリーのビジュアルがかなり衝撃的なVTR。Wikipediaの記述には、香港では、「日本のデビッド・ボウイ」として人気がある、とあるが、それも頷ける。
時を戻そう。この曲も紹介したかった。加瀬邦彦がザ・ピーナッツに提供した73年リリースの曲。
超かっこいいR&B歌謡。
「想い出の渚」から遠く離れ、情熱の砂漠経由で大都会TOKIOまで行き着く加瀬邦彦の作曲能力、その進化たるや恐るべし。
アン・ルイスのターニング・ポイントとなった「女はそれを我慢できない」を作曲したのも加瀬邦彦。アン・ルイスはここで息を吹き返した。加瀬邦彦がいなかったら、ヤマタツ作曲の「恋のブギウギ・トレイン」もなかったと思うと、感謝しかない。
そして、この曲を作ってくれたことにも感謝だ。
マンジョキ・ロックン・ロール / 内田裕也&1815ロックンロールバンド
この曲は安岡力也の「ホタテのロックンロール」の元曲。そういえば、安岡力也もGS出身だ。シャープ・ホークスとワイルド・ワンズ、当時接点はあったのかな?
そして、セイント・フォーのプロデュースも。
セイント・フォー、最高。映画「ザ・オーディション」配信してくれないかな。
巨額をかけて大規模なオーディションの末に生まれたアイドル・グループだったが失敗に終わった、という認識しかなかったが、Wikipediaには、そのオーディション自体が事務所の詐欺だったと書かれていて、背筋が凍った。
他にも小柳ルミ子やら、黒木真由美やら、松本ちえこやらに楽曲提供した加瀬邦彦、残念ながらもうこの世の人ではないが、こころより敬意を表して、この曲を最後にご紹介。
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