泣きのトランペットが好きだ。特にイントロで湿り気のあるトランペットのソロが響いている曲が。
深夜の高速でひとり車を飛ばしていて、藤圭子の「新宿の女」がふいにカーラジオから流れた時、「ああ…」と思わずため息がもれたことがあった。真っ暗な車内、遠くに街の灯が流れていて。
藤圭子の歌唱ももちろん素晴らしいのだが、イントロのトランペットがこぶしを回しているかのようなビブラートをかけていて、音に寂寥感とか悲壮感とか感情を乗っけている。イントロだけでなんとなく赤ちょうちんの絵が浮かび、曲の世界が伝わってくる。
これを聴いた時も「ああ…」とため息をついた。
クレジットにはポリドール・オーケストラとあるが、このトランペットの音色、暴力的すぎやしないか。どんなマイクの位置で録音したのか非常に気になる。歌詞に沿った、少女の狂おしい恋愛感情を表現したトランペットなのだろうか。
ただ、不思議と曲を壊したりはしておらず、暴力トランペットのイントロに続く園まりの優しくつぶやくような歌いまわしで、うまくなだめているような。園まりの感情表現が豊かな歌い方も非常に技術が高い。
そして、これを聴いた時も「ふう…」とため息が出た。
高らかに鳴る哀愁のトランペット。学生運動に取り付かれた恋人のことを歌っている歌詞とのことで、(安保闘争に疲れた若者が支持した歌、というだけで元々は学生運動家のことを歌った詩ではないみたい。)運動に夢中になるあまり放っておかれて、主人公の女は「アカシアの雨に打たれてこのまま死んでしまいたい」というある種うつ状態にある。女の、不安のあまりはちきれそうで、でもどこか諦めてもいる胸の内、それを表現したトランペットだろうか。
レコード音源は、園まりのときと同じポリドール・オーケストラ。同じトランペットの人かもしれないと思うとわくわくする…。
深いリバーブがかかった、霧の向こうで聞こえるようなむせび泣き系のトランペットの音色に、なぜこんなに反応してしまうのか。やっぱり幼い頃聴いていた色んな曲が影響しているのかもしれない。最有力候補は、これかな。
金曜ロードショーのテーマ フルバージョン『Friday Night Fantasy』高音質Ver.
ひょっとしたらこれかもしれない。
どこで聴いたか忘れてしまっているのだけど、多分夕方5時の町内放送とか、校内放送とかそんな類いかもしれない。記憶に刷り込まれている。
5年ほど前に、近所でトランペットを屋外で練習する人がいた。夕方になると決まって聞こえる。おそらく吹奏楽部に入部した少年か少女か。へたくそではあったが、夕暮れとトランペットの音色は親和性が高くて、つい聞き入って悦な気分になっていた。
案の定、苦情が入ったと見えて、それは1ヶ月も続かなかくて、ぱったりやんだ。残念に思ったが、こういう時代だからしょうがない。
いつかトランペットに挑戦してみたい、という気持ちがあるが、肺活量に自信がないし、ヒノテルみたいに頬を膨張させる自信もないな。
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