曲中にセリフが入る曲というのは、歌謡曲の世界では珍しくない。
パッと思いつくだけでも、
演歌だと美空ひばりの「リンゴ追分」、島倉千代子の「東京だョおっ母さん」などが有名か。映画の主題歌だと渥美清「男はつらいよ」。ポップスでは、加山雄三の「君といつまでも」。ロックではダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」。アイドルでは、薬師丸ひろ子の「あなたを・もっと・知りたくて」。アニメだと「アタックNo.1」…。
思い出していくと、古今東西ゲームが楽に成立しそうなくらい出てくる、出てくる。
数あるセリフ入り歌謡曲の中でも、特にうっとりするセリフが挿入されている曲を、鑑賞していきたい。
まずは、これ。
元・やくざの組長という、ものすごい経歴を持つ映画俳優、安藤昇。
の記述を読むだけで、1本の濃い映画でも見たような気分になる。
そんな安藤昇の、やはり濃い映画のような一曲。
1番は、周囲へのお礼…て書くと全然不穏な感じがしないが、任侠道にのっとった別れの挨拶とでも言おうか、凄みがあって怖い。
2番は、母親についての語り。急に声を荒げて、「あんたは俺の何なんだ」と吠えるので、普通にびっくりする。すごい演技力。
3番は、女。「道ばたの石ころのように拾っては捨てた女たち 俺が死んで泣くやつ千人 笑うやつ千人 知らぬそぶりが千人か…」
私が言うと冗談以外の何物でもないが、安藤昇が言うと3千人くらいはゆうに抱いてきただろうな、と信じられる。
私も死ぬ時は、「男が死んで行く時に」のせりふを全部暗記して言おうかな、と目論んでいる。死に行くタイミングを計るのが難しそうだが。
ちなみに、この曲、作詞は阿久悠である。
次も任侠もの。
「古いやつだとお思いでしょうが」という有名なセリフで始まるこの曲、私もこの曲にしっかり影響を受け、一時期は、何かを言うたびに「古いやつだとお思いでしょうが」という言葉をくっつけて喋っていたので、周りにだいぶ煙たがられた。
「好いた惚れたと、けだものごっこが罷り通る世の中でございます。」
けだものごっこ、すごい言葉だ。鶴田浩二に叱られるかもしれないが、けだものごっこには並々ならぬ興味がある。すみません。
お次は、杉さま。
フジテレビ系列の刑事ドラマ「大捜査線」のエンディング・テーマ。
この動画では杉良太郎の語りがかなりドライブしていて、カッコ良い。
キザな白スーツで、景気良くこぶしを回して「♪ポリスマ〜ン」と歌う姿は、とても刑事の殉職を悼む歌を歌っているとは思えないが、それでも絵になるからすごい。
次はGSから。モップスのサイケデリックなナンバー「お前のすべてを」。
えぐいファズの音がイカす。
鈴木ヒロミツの必死に哀願を乞う熱量がすごいが、途中油断したのか、素っ頓狂な「やだー」という子供が駄々をこねるようなセリフが挟まれていて、手放しにかっこいいとは言えない。
「馬鹿だというのか クレイジーだと言うのか」という印象強いセリフは、人生のどこかで使ってみたいとは思っているが、なかなかそんな場面に巡り合わない。
次はおしゃれな恋愛もの、と言っていいのかな。中村晃子と細川俊之のデュエット。
中村晃子・細川俊之 あまい囁き 1973 / Paroles,paroles
イタリア産のピロートーク歌謡のカバー。
細川俊之のなまめかしいキャラ立ちがものすごい。
艶っぽいプレイボーイの口説き文句を大人の振る舞いでおしゃれに躱していく女、という情景が描かれているのだ、と思う…。
が、やっぱり笑っちゃうよね。
日本人がどうあがいてもヨーロッパ産の映画のようにおしゃれにはいかない、という厳しい現実を突きつけられる。
最後はお色気もの。
こんなにくすぐったい気持ちにさせられる曲も珍しいだろう。「イヤ」「ダメ」のバリエーションだけで一曲通してしまう力技なのだが、バックの演奏が美しいこともあって、全部聴けてしまう。
プティ・マミは、歌手の麻里圭子がその正体で、「月影のランデブー」「裸足のままで」などマニア人気の高いシングル盤をリリースしており、どサイケ映画「ゴジラ対ヘドラ」に俳優として出演し、歌も披露している。
私の葬式ではこれを流してもらおう、と目論んでいる。取り返しのつかないくらいおかしな雰囲気になるに違いない。
以上、うっとりしていただけただろうか。セリフがばっちりはまるとかっこいいセリフ入り歌謡曲、この系譜が絶えないでほしいと切に願う。
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