銀河の逃避行

今、万感の思いを乗せて汽車が行く

虚実の判らないエピソードと嘘八百でクスッと笑わせる、高木壮太著「新 荒唐無稽音楽事典」。

高木壮太著「新荒唐無稽音楽事典」。

音楽にまつわるエピソードやトリビアが事典の体裁で記載されているのだが、いくら音楽が好きでも、真面目すぎる人は買うのを控えた方がいいかもしれない。書かれている情報は虚実ないまぜであり、一部ふざけていたりするので、ユーモアに寛容で、一定の距離を置いて鑑賞するスタンスがないと、誤った情報を頭にインプットする羽目になるかもしれない。

まあ、(【AOR】「あまりにもおしゃれなロック」の略。)と書かれているからといって、それをそのまま鵜呑みにする人がいるとは思えないけど。

ただ、あまりにも扱う音楽の範囲が広範なため、ちっとも知らない項目もあり、冗談なのか何なのか判断できないものもある。博識な人もいたものである。

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高木壮太著 新 荒唐無稽音楽事典 平凡社発行

 

一部を引用してご紹介。

 

アルバート・キングAlbert King(1923-1992)[人物]

ブルーズ三大キングの1人である。3人揃って活動する時は殿様キングスを名乗る。

 

おもろい。ちなみに残りの二人は、B.B.キングフレディー・キング。3人揃って「なみだの操」を 演奏したりはしない。あれもブルーズといえばそうかもしれないけど。

 

 

イヤーワーム】earwarm[心理]

ある音楽が耳にこびりついて離れなくなる現象。あるひとはサハラ砂漠を徒歩で横断中に『雪の降る街を』が離れなくなったといい、またあるひとは生涯『コパカバーナ』だけが頭の中に鳴り響いて深刻な鬱状態に陥ったという。

 

コパカバーナがずっと脳内再生されていたらきついだろうなあ。この2つの例は創作なのか?冗談なのかどうか判断がつかない。 ちなみに、この現象のことをイヤーワームというのは本当。耳みみず。

 

 

X JAPAN】(えっくす-じゃぱん)[バンド]

NHKホールには日本最大のパイプオルガンがある。レピッシュのひとが借りに行ったら断られたそうだ。ところが、YOSHIKIには簡単に貸した。世の中ヤンキーに優しくサブカルに厳しいという例である。

 

実際にNHKホールには巨大なパイプオルガンがあるらしい。これは本当の話っぽい。「日本人の9割はヤンキーとファンシーでできている」という根本敬の言葉も併せて心に留めおきたい。

 

 

【歌謡曲】かよう-きょく[ジャンル]

わが国の音楽製作の歴史は「できるかぎり『歌謡曲的なもの』から遠ざかろう!」という強靭な意志のもとにスタッフ一同が邁進してきた歴史である。そしてそれがそのまま「歌謡曲の歴史」となっているのは皮肉である。

 

 有名な作曲家のインタビューを読むと、洋楽的なものを志向して創作していた、洋楽に追いつけ追い越せで〜、みたいな述懐は多い。本当に洋楽そのものを作ってしまったら売れないので、うまく歌謡曲的なものと流行の洋楽と折衷できる人が生き残っていったのだろう。

 

 

【ケチャ】kecak[ジャンル]

バリ島の集団舞踏劇とそれに伴う合唱のこと。神秘の島の密林で古代から行われてきたように見えるが、1930年代にドイツ人が観光客むけに考案したものである。どうだい?ありがたみが90%ダウンしただろう。ふふふ。

 

これはショック。高校の頃、音楽の授業で習ったときはドイツ人がプロデュースしたなんて話は一言も聞かなかった。ケチャ - Wikipediaにも確かにその記述がある。しかし、ケチャの古い録音を聞くと、魂が揺さぶられるのもまた事実。ドイツ人のプロデュース力がすごかったのであろう。


インドネシア・バリ島・ウブドゥのケチャ

 

【校歌】こう−か[ジャンル]

幼稚園から大学まで日本には学校が約6万校ある。これらのほとんどに「校歌」があるのだから、アイテム数からいっても「校歌」は一大ジャンルである。スカ〜ルーツレゲエ期のジャマイカ産レコードの総アイテム数が1万2000くらいらしいので、「校歌」がどれだけ巨大なジャンルなのかが想像できるだろう。

 

「校歌」を収集して回っている人など聞いたことがないが、果たして学校周辺の風土の礼賛と儒教の教えみたいな歌詞が詰まった歌を好んで鑑賞したい人などいるのだろうか? ユーミンが作った校歌は別としても。

 

筒美京平】つつみ-きょうへい(1940-)[人物]

日本の国民的作曲家で音楽室の壁に写真が張り出されるのも時間の問題であるが、どんな顔をしているのか国民は誰も知らない。

 

これは本当にそう。顔かたちが浮かばない、というのは案外困るものである。小林亜星なんかは頭に浮かべると、パッとサイデリアのCMのように大量に出現して、こちらも困る。

 

このような感じで、ふざけたりふざけなかったりしながら書かれた本で、時に笑えたり、時に感心したりして、音楽好きの人にぜひお勧めしたいのだが、冒頭に書かれている通りなので、読む際は距離感を大事にして鑑賞していただきたい。贔屓のミュージシャンがおふざけの対象になっているかもしれないので。

 

 

 

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