昭和アイドルの曲で一番扱われる季節は、おそらく夏であろう。アイドルと夏の取り合わせは、梅に鶯、竹に雀、サンシャインにアシュラマンくらいのベストタッグである。
女性アイドルだけでも、松田聖子「夏の扉」、キャンディーズ「暑中お見舞い申し上げます」、桜田淳子「十七の夏」、山口百恵「ひと夏の経験」、早見優「夏色のナンシー」、河合奈保子「夏のヒロイン」などなど、一般にも浸透した名曲がたくさん。
一方で、春を題材にした曲といえば思い出されるのは柏原芳恵「春なのに」、キャンディーズ「春一番」、松田聖子「チェリーブラッサム」、「赤いスイートピー」くらいか。
あまり知られてはいないが、春の曲で良い曲はたくさんあるので、思いついたものをランダムにご紹介していきたい。なお、今回ご紹介するのは昭和の女性アイドルの曲のみ。
・南野陽子/春景色
シングル「悲しみモニュメント」B面。サビまでじわりじわりと盛り上がっていく曲の展開がすばらしい、とても美しい曲。間奏のアコギ・ソロなどギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」のようである。
作曲は岸正之。南野陽子には「話しかけたかった」も提供している。こちらもいい曲。作詞のイノ・ブランシュはネットで検索したら、作家の平中悠一の変名らしい。
詩の主人公の女の子は大学に合格、対する「あなた」は不合格。そんなエピソードを、
”卒業式が終って 春休みが過ぎてけば 4月からあなたより1つ上級生になる”
”ジェラートなめてても やっぱりあなた 元気ない 「嫌われても仕方ない」と思ってる ばかなの”
「あなた」は大学に落ちたことをふがいなく思い、女の子に嫌われることを恐れているが、女の子は泰然自若、そんなことくらいで「あなた」への思いは揺るがない。「ばかなの」にはおじさんかなりキュンとくる。
怖いのは、
”いつの日かこんなふうでいられなくなるとしても 今はただ優しい日射しに甘えていたい”
と女の子。
女の子はかなりクールに「あなた」との関係を考えている。いつまでも続くとは限らない、と割り切っている。ずっと一緒…などと夢見る少女じゃいられないのだ。
なんだか、春ソングというか卒業ソングの代表格、斉藤由貴「卒業」の歌詞を思い出す。
この歌の主人公の女の子も超絶クールだ。
・斉藤由貴/卒業
”離れても電話するよと 小指差し出して言うけど 守れそうにない約束は しない方がいい ごめんね”
”ああ 卒業しても 友達ね それは嘘では無いけれど でも過ぎる季節に流されて 逢えないことも知っている”
筋金入りのクールさと客観性を持った女の子。ちなみに私がこんな風に人生に「諦念」を導入したのは40を目前に控えてからだ。いわゆる、「くたびれた」おっさんになった瞬間だと私は思っているのだけれど。
この女の子の場合は「くたびれた」のではなくて、大人になることへの期待が膨らんでいくのを抑えよう、抑えようとしているのかもしれない。
”卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう でももっと哀しい瞬間に 涙はとっておきたいの”
という松本隆の素晴らしい歌詞にあるように、これからの人生には楽しいこともそうでないことも待ち受けている、その世界に今から踏み出すのだ、というある種の「覚悟」みたいなことだろう。だから過度に期待するのは禁物、と背筋がピンと伸びる思い。
なんだか、深くてコクのある曲が続いたので、次は思い切り軽佻浮薄なやつを。
・ソフトクリーム/やったね!春だね!!
ちょっと針が反対方向に振り切れすぎてしまったが、ナイス軽薄。
春が来て露出狂やおかしな人が増える理屈で、女性が発情しちゃう気持ちをかなり薄めのオブラートに包んだ歌詞。
”ワンワン・ニャンニャン 騒がしい春の夜は だんだんランランしてきちゃう 乙女心 気楽な娘 おまけの娘 みんなドッキン!接吻!春の花粉のせいね”
…薄めのオブラートどころか、かなりむき出しの発情期を歌った歌だった。作詞は森雪之丞。恐るべし。
・石野真子/春ラ!ラ!ラ!
石野真子の曲で、この「春ラ!ラ!ラ!」と、「日曜日はストレンジャー」には、アメリカのR&Bグループ、フォートップスの「セイム・オールド・ソング」のリフが使われている。作曲家も編曲家も違う二曲で同じモチーフを使用することは、ただの偶然だったのかな。
動画の埋め込みができなかったので、こちらからどうぞ⇩。
そして、この曲の詩の書き出しは有名。
”春という字は 三人の日と書きます あなたと私と そして誰の日?”
出だしで「おっ?」と興味を引かれるが、何回か読み返してもその後の詩の意味がよくわからない。サビは
”三人そろって春の日に 三人そろって春ラ!ラ!ラ! 何かはじまるこの季節 三人そろって春ラ!ラ!ラ!”
三角関係を匂わせる歌詞なのか、それとも三人そろってもっとディープなラ!ラ!ラ!をする関係なのか。その辺りがかなりぼやかされているので、結局何なの?とモヤモヤする歌詞である。
さて、春の花粉のせいかもしれないが、まぶたが重たくなってきたのでこの辺で。一応レコード棚からは島田奈美の「春だから」や、中山美穂「色・ホワイトブレンド」、大場久美子「スプリング・サンバ」など引っ張りだしてはいたのだけれど。またそれはいつの日か。
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