銀河の逃避行

今、万感の思いを乗せて汽車が行く

いしだあゆみ/渚にて 隣り合わせてはいけない2つのドーナツ盤

我が家では、レコードを箱にランダムにしまっているので、探すときに大変である。

 

細かくインデックスとかつけてジャンルを分けて収納すれば快適だろうと思ってはいるのだが、残念ながらその甲斐性はない。

 

あるシングル盤を探して箱を漁っていたとき、このシングル盤が目に留まった。

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いしだあゆみ渚にて 作曲 中村泰士 作詞 阿久悠 編曲 森岡賢一郎

日本人がDNAレベルで共鳴する「喝采」や、ディスコ演歌「北酒場」を生み出した中村泰士の作曲。

この人の作るメロディーは日本人をノスタルジアで包んできゅんとさせる、まさに職人技。

編曲の森岡賢一郎も「長崎は今日も雨だった」「瀬戸の花嫁」などの作曲で有名。これまたミトコンドリアレベルでしみる名曲たち。その森岡賢一郎が編曲に回っている。

 

渚にて」は本当に優しいタッチの曲だ。暖かいストリングス、チェンバロアルペジオ、和音をならしているのはビブラフォンかな。フルートの音も優しい。陰で支えるリズム隊も余計なことはせず、引き立て役に徹している。

 

いしだあゆみの抑えた歌い方も素晴らしい。感情表現は最小限にとどめ、淡々と歌っている。

 

 

この曲の一番の鑑賞すべきポイントは、阿久悠の手による歌詞だ。歌も演奏も、全てはこの歌詞世界を理解して表現する、という目的を果たすことに向けられている。

 

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大事なものを諦めて、傷ついた女のうた

 

泣ける

 

「女から男へと まことが通い

男から女へと 男から女へと あそびが返る」

こんなひどいことってあるかよ、と今すぐドアから飛び出していきたくなる。

 

「あのひとも そうだった

最後には そうだった」

 

信じていた男も結局は、あそび。あれだけまことを尽くしたのに。

なんという薄幸

 

これからこの女は幸せになれるのだろうか。

まことが通じる男に出会えるのだろうか。

多分薄幸のまま生きていくんじゃないか。

男なんて、女であそぶことしか考えていないのだから。

 

辛い。

 

阿久悠の天才!これほど短い歌詞にこんなドラマを詰め込めるのはやはり天才としか言いようがない。

 

話を戻すが、家のレコード箱を漁っていて、この「渚にて」と隣り合わせで収納されていたとあるレコード。この2枚が続くことの意味に、私はあそばれる女の不幸というものは未来永劫解決できないのでは、と絶望した。

 

そのレコードというのが、

 

 

 

 

 

 

 

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田原俊彦/キミに決定! 作曲・作詞 宮下智 編曲 船山基紀

 

いきなり「キミに決定!」である。そんな軽いテンションで付き合う女の子を指名していいのか。王侯貴族なのか。

 

歌詞を見てみよう。

 

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現代のチャラ男という人種が舌を巻くほどの、テンションの耐えられない軽さ

 

 

絶句…

 

女がひとり渚に立って、傷ついた鴎に自分を重ね合わせて気持ちを沈ませているというのに、

 

なんだこのけしからん男は!

 

 

たたずむ女のもとに、こんなテンションの男が

「ねェ キミキミ サマー・ガール

恋の相手は お決まりですか?」

と近づいてきたら、

 

女の手によって即座に渚に突き落とされてしまうに違いない。

 

それでも男はめげない。

ずぶぬれで海面から頭を出し、とびきりの笑顔でこういうのだ。

 

「Oui 素敵な偶然

運命 無視しちゃ バチが当たるサ」

 

女は岩場に転がっていた石をありったけ男に投げつけるだろう。

 

たんこぶを2つ3つこしらえながらも、男はびしっと女を指差し

 

「キミに決定!」

 

これである。

 

 

女はどう思うか。

 

意外とほだされて、

「1.2.3.4.5 二人でステップ

6.7.8.9.10 スキスキ Good Timing(ウキウキ)」

砂浜で踊り出すだろうか。

 

 

だとしたら、女は再び大きなあきらめを味わうことになるだろう。

こんな男にまことが通じるとは思えない。

 

 

男と女、いつの世も矛盾とすれ違い。変に希望を持たず、大きくあきらめた方がラクに生きられるかもしれない。

 


田原俊彦「キミに決定」

 

さんざんネタにしたあとでなんだけど、とてもノリのいい曲で大好きだ。サビにはいる前のキンコンカンコンという鐘の音や、「ウキウキ♪」という女性コーラスが能天気で素晴らしい。

 

 

www.ruth-etting.com

 

オーティス・レディングの「I can't turn you loose」を下敷きにしているのかな。ものまね王座決定戦で流れてた。 

 

 

 

 

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