銀河の逃避行

今、万感の思いを乗せて汽車が行く

林 寛子/仮病が上手な男の子 花沢さんの立ち位置を思う

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林 寛子/仮病が上手な男の子 作曲 鈴木邦彦 作詞 千家和也 編曲 竜崎孝路

 

仮病が上手な男の子。

 

このタイトルを目にするたび、私はアニメのサザエさんにでてくる花沢さんのことを思い出さずにはいられない。

 

花沢さんの立ち位置、人なつこくて朗らかで、少し強引なところがある少女。リーダー気質があるけど、色恋にはめっぽう弱い。

 

カツオと結婚すると一方的に宣言しているあたり、色恋に弱いとは言いがたいかもしれないが、カツオのハートを完全につかみ損なっており、その剛胆な性格が災いして、細かい恋の駆け引きはできなそうである。

 

ところで、カツオのハート、と書いたが、カツオの心臓はへそ、とも呼ばれ美味である。

 

花沢さんは裁縫などの家庭的なことは得意なので、おしとやかにしていたら好意のひとつくらい寄せられそうなものだが、完全に自身のキャラクターが恋路の邪魔をしている。

 

それをふまえて、「仮病が上手な男の子」の歌詞を読んでほしい。

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エピソードを羅列する「私の彼は左きき」の千家和也の得意パターン

 歌詞を読んだ10人中10人が、この歌の相手の男の子は女の子のことをうとましく思っていて、避けて逃げまわるために仮病を使っている、と読み取るのではないか。

 

私もそう読み取った。

 

「キッスをせがむ」と、「歯が痛い」からと、断られた?

「近くに寄った」ら、「熱がある」からと、遠ざけられた?

「好きだと言った」ら、「耳が鳴る」からと、聞こえないふりをされた?

 

どう考えたって脈がない

「男の子ってずるいのよ 大事なところではぐらかす」

この仮病ははぐらかしではなく、変な女から本気で逃げるために使われる仮病である。

 

私も、好意のない女性から告白を受けたとき、どうしようと思って酒に酔った振りをして、聞いてなかったことにした経験がある。こういう時ははっきり男らしく断らなくてはならず、私は誠意のないダメ男ということである。

 

この歌の男の子も男らしく断る勇気がないのだ。そう、確かにこの男の子も悪いには悪いが…、

 

人は何か都合の悪いことを迫られ、はっきり断れない時は、誰だって具合が悪くなる。

仮病じゃないかもしれず、本当に具合が悪い可能性があるということだ。

 

痛々しいのは、そんな男の体調の変化もつゆしらず、

「女の子って損なのよ 嘘とも知らずに泪ぐむ でも好き 好きなのーーー」

というところ。

 

自己陶酔、というやつである。

 

学生時代、恋愛中の自己陶酔がキマりすぎて、校舎の窓からシャボン玉をとばしていた女子がいたが、山下久美子の「バスルームから愛を込めて」(♪男なんてシャボン玉)じゃあるまいし、それはないだろうと思った。

 

これほどまでに痛々しい勘違い、気持ちのすれ違いは、吉本の新喜劇でも見ているような錯覚を覚える。

 

ジャケットの林寛子は可愛いが、ちょっと勝ち気で副鼻腔をふくらませた笑顔に、

自己陶酔系女子というイメージがかっちりハマる。タイトルにマッチした写真だ。

 

ちなみに、曲は70年代の元気でさわやかなアイドルソングで、間に3拍子を入れるあたりのギミックも自然で、とても聞き心地が良い。曲調や音像は山口百恵のデビュー曲「としごろ」とか、麻丘めぐみの「女の子なんだもん」、あの辺りに似ている。


「仮病が上手な男の子」 林寛子さん

 

 

花沢さんの様に、どうにも恋愛の運び方がまずい女とは真反対の、男心をくすぐるのが

妙に上手い女も世の中にはいる。

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奥村チヨ/嘘でもいいから 作曲・編曲 筒美京平 作詞 川内康範

 

奥村チヨの「嘘でもいいから」。

この曲は早すぎたツンデレ歌謡である。ツンデレ歌謡と言うジャンルがあるのか知らないけど。

 

川内康範のペンによる歌詞を見ていただきたい。

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こんな可愛いこと言って困らせる女性は、魔性としかいいようがない

 

実に男心をくすぐる、というか男に主導権を持たせているようで、その裏で見事に操っている、恋に熟達した女である。

 

まあ、「撫で撫で」はいいが、「妬き妬き」、「抱き抱き」などの造語で会話するあたり、痛々しいカップルの恋模様のようではある。

 

だが、二人の間でしか通じない秘密の合い言葉が、恋の炎を燃え上がらせることもまた事実。何年か後に「妬き妬き」をひとり思い返して顔真っ赤、背中がぞぞっとすることだけは間違いないけど。

 

ツンデレ、秘密の合い言葉、この辺の如才なさが、仮病を使って逃げられる少女とはモノが違うのである。

 

しかし女性というものは化けるもので、花沢さんだって将来どう変化するかは分からない。あのハスキーボイス実家の強い経済力(花沢不動産)そして押しの強さを活かして、男を手玉に取る可能性だってあるのだ。

 

女はたくましい。男はいつでも仮病を使って逃げる用意をしておかなければ。

 

それにしても、「おふくろさん」や「月光仮面」でおなじみの、作詞家・川内康範。このような歌詞を書いて男の喉をゴロゴロいわせることができるのは、職業作曲家というもののすごみを感じる。

 

作、編曲は筒美京平で、私はこの曲を10年以上愛聴しているが、いっこうに飽きない。編曲もやっているのか、すごいな。幾重にもポップの魔法がかけられているので、多分一生聞き続けられると思う。ドラムスの音が軽妙で心地よい。

 

ちなみに奥村チヨは、恋三部作やお色気路線の歌が続いたので「もう鼻を鳴らして歌うのは嫌です」とプロデューサーの草野浩二(漣健児の弟)の前で泣いて訴えたとか。そのエピソードがシリアスなバラード「終着駅」のシングルに繋がる。

 

 

 

 

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