銀河の逃避行

今、万感の思いを乗せて汽車が行く

漫画「風雲児たち」を読めば、江戸時代が楽しくわかるようになる!

私がまだ花も恥じらう高校生だった時、この漫画に出会った。
私の父が、どこから情報を仕入れたのかは分からないが、漫画「風雲児たち」の1〜3巻を買って来た。
父は感想を特に言わなかったが、私は父が読み終えた後に読んでみた。

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みなもと太郎風雲児たち 1巻


絵は、ギャグ漫画の3頭身キャラで(美人女性だけは普通のサイズ)、スラムダンクとかスタイリッシュな漫画が流行っていた当時の高校生にしたら、
「なんかダサい漫画だな」が第一印象なのは仕方のないことであった。
作者のみなもと太郎なぞ、誰?それ。てな感じ。

 

話は関ヶ原の戦いから始まっている。
「これはテスト勉強に役立つかもしれない」と思い、それなりに大学受験の事を真面目に考えてはいたので、
ギャグが滑り気味なのを気にしながらも読み進めて行った。
昭和54年から連載が始まった漫画である。平成の高校生にはギャグのテイストが古臭く感じたのも仕方がない。


父は面白いと感じたのであろう、続きの巻を何週間かおきに買っていき、幕末編以前の全30巻(潮出版版)は揃った。
テストに役立つかも、という実利をとって読み始めた私であったが、実利どころか、それまで特に何も感じていなかった日本史に対し、「歴史の勉強が好きになる」、という大きな影響があった。

 

正直言って、学校の日本史の授業は、出来事を羅列して記憶するだけで、何の魅力も感じていなかった。それでも勉強だからと年号や人名を記憶したりしていた。そんなのちっとも面白くない。


しかし、「風雲児たち」は、例えば関ヶ原の戦いという出来事一つをとっても、東軍の思惑、西軍の思惑、裏切り者の思惑、そして合戦に参加する各武将の心理や歴史的な背景を、ギャグを交えながら描かれており、それはいたいけな高校生にとってわかりやすくて面白く、関ヶ原の戦い、というただの教科書の活字でしかなかったものが、真っ赤っかな血が通う人間ドラマである、と認識出来るようになったのだ。

 

これは大きな違いだ。教科書に書いてあることが、頭の中で「物語」として再現できるようになるのだから。

 

風雲児たち」は、元々幕末を描く予定だったものが、作者のみなもと太郎が、幕末を描くには江戸幕府の成立から描かないといけない、と考え、関ヶ原の戦いのシーンからスタートした。話が幕末に至るまで、30巻の巻数を要しているが、その30巻がべらぼうに面白い。

そして、30巻費やしただけあって、関ヶ原の戦いで外様となった藩は恨みを募りに募らせ、教育に力を入れて人物を育て、市井の学者たちは思想を研ぎ澄ましていき、西洋の知識や技術を身につけていく。

そうしたことがあった上で幕末の大混乱、果ては世界に類を見ない無血開城が生まれた、ということが良くわかるようになっている。全てはつながっている、ということがわかるのだ。勉強も、理解できれば、好きになる。

 

因果関係に触れず、年号と出来事と人物名の記憶に追われた日本史の授業は、あまり意味がなく、歴史ドラマをきちんと筋道立てて教えてくれた先生などいなかった。

風雲児たち」は、ギャグ漫画ベースであるが、妙に感動する場面もあるし、シリアスなシーンもあり、話の運び方も分かりやすく、飽きる事がない。いったい何度読み返したことか。
最初はお寒い、と思っていたギャグも、だんだん好きになってくる。昭和の懐かしギャグにも妙に詳しくなったり。

 

風雲児たち」にあまりに影響されたので、歴史うんちくを友達の前で披露してしまい、嫌われかけたことがある。
そんな私が選ぶ、幕末編以前の「風雲児たち」のエピソード、ベスト3。

 

3位 伊能忠敬の日本計測の旅

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みなもと太郎風雲児たち 17巻

ご存知、日本で最初に正確な日本地図を作った伊能忠敬の物語。ただ海岸沿いを歩いて計測した、というだけの単調なエピソードではない。19歳も年下の高橋至時に弟子入りしたエピソード、鳥居耀蔵による執拗な妨害工作、日本の海防について、シーボルト事件とのつながり、などひとつひとつの話が面白く、地図作成に乗り出したのは隠居後だという事実は、長寿社会の現代において学ぶことが多い。井上ひさし「四千万歩の男」も併せて読みたい。

 

 

2位 解体新書をめぐる杉田玄白前野良沢の苦闘

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みなもと太郎風雲児たち 7巻

教科書だと2行の記述で済むような事柄かもしれないが、オランダ語で書かれた「ターヘル・アナトミア」が「解体新書」として訳されて出版されるまでの苦闘を描く。翻訳の作業など、辞書を活用すればそう難しくもない、と思うかもしれないが、当時はその辞書さえなく(あるにはあったが、しょぼかった)、しかも医学の専門書である「ターヘル・アナトミア」。それをどうやって訳していったのかが描かれる。

人付き合いのいい杉田玄白と、頑固で潔白、慎重な前野良沢のキャラの違いが、のちに重大なすれ違いを生む。仲たがいする二人だが、しかしどちらも医学の発展を望んでいる。濃い〜人間ドラマで、佳い映画を一本見たような気になる。このエピソードは、NHKでドラマ化もされた。

 

1位 大黒屋光太夫のロシア漂流旅

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みなもと太郎風雲児たち 10巻

漂流してロシアにたどりつき、日本に帰りたいがために広大なロシアの地を旅することになる漁師船の船員、大黒屋光太夫一行の物語。漂流した果てにたどりついた陸地での原住民との邂逅から、一行を助けるアダム・ラクスマンとの友情、果てはロシアの女帝エカテリーナ2世に謁見することになる数奇な旅。

仲間が凍傷で足を切り落とさざるを得なかったシーン、そして長旅に心が折れてキリスト教に入信してしまい、帰国できなくなった仲間との別れのシーン、この一大スペクタクルが漫画で味わえる喜び。この大黒屋光太夫の物語は、井上靖原作の「おろしや国酔夢譚」(佐藤純彌監督)として映画化されているが、「風雲児たち」の方が数倍面白い。

他にも、平賀源内や最上徳内林子平司馬江漢高野長英渡辺崋山シーボルト西郷隆盛坂本龍馬勝海舟などなど、人間の魅力がものすごい人たちのエピソードがいちいち面白いので、歴史に興味ある人もそうでない人にもお勧めしたい。もちろん学習まんがとしても役に立つ。私の人生に色濃く影響を与えたまんが。

 

 ブログの漫画の画像は、潮出版から出ていたもので、今は流通していないと思われる。リイド社よりワイド版が出ているので、お探しの方はそちらをどうぞ。

 

 

 

 

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