やさぐれ。
やさは家、隠れ家のこと。盗人や警察の隠語として使われている。刀の鞘(さや)を反対にしたものらしい。刀は必ず鞘に収まることから、家という意味になったのだろう。
やさぐれは家出人、宿無しを指す。転じて、無気力でいい加減、投げやりなことを言う。
そんな無気力でいい加減、投げやりでやけっぱちな歌謡曲をご紹介したい。
大友裕子の「手切れ金」である。
ジャケ写の彼女はソバージュと黒革の上下セットアップ、そして右手にタバコ。もう条件は全て揃っている。
勝手な希望であるが、「ビー玉のお京」みたいな通り名が付いていてほしい。
肝心の曲は大友裕子本人の作詞作曲なのであるからして、彼女はシンガーソングライターということになる。
シンガーソングライターというと、キャロル・キングとかジェイムス・テイラーとか日本で言えばユーミンとかああいった温もりのあるアコースティックな音楽を作る人、と考える私の感覚は古いのかもしれない。少なくとも私の考えるシンガーソングライターは「手切れ金」なんてタイトルを曲につけない。
彼女はヤマハのポプコン出身、というのも予想を裏切られる。うらぶれた小便臭い飲み屋街で雨に打たれながらシケモクをふかしながら気だるそうにふらふら歩き、革ジャンの中には拾った子猫を抱いて、「お前はあたいと一緒でひとりぼっちだね…」と独り言を言っている、そんなイメージなのだが。
では、その彼女のやさぐれすぎ歌謡を聴いていただきたい。
声がすごい。カミソリで切られるような鋭利なハスキーボイス。ドスがききまくり。椿鬼奴がカスカスにならずにちゃんと発声したらこんな感じかもしれない。感情というか、情念を込めたような歌い方だ。
歌詞の世界観もやさぐれが過ぎるのだけど、
まず驚くのが、手切れ金という大文字のタイトルの横に「TEGIREKIN」とローマ字が添えてあることだ。手切れ金という単語をローマ字に変換しようという試みは、多分これが世界初なのではないか。
ちょっとおしゃれにすら見える。マダムが着ている毛皮のコートのタグにこれが書かれてあっても違和感がないかもしれない。
「あんたあたしの目の前で ほかのオンナ抱いて見せた」
て、男の性癖だろうか。見られると興奮するみたいな。
しかしまあ、好いた男が他の女とチョメチョメしているところを見せつけられたらボトルの1本も開けたくなるというもの。で、酔っ払ってしまって今度は自分が見ず知らずの違う男に抱かれる、という。
で、破れかぶれになり、次の男が見つかるまでの生活費をおいてけ、と男に請求する。
悔し紛れについ口に出したセリフだろう、やっぱり
「もういいよ お金なんか もういいよ」と惚れた自分が悪い、とばかりに引き下がる。
女性が書いた詩とは思えないぐらいハードボイルドでヤクザな詩世界。
詩は想像を膨らませて書くもの。多分悪い映画を見た後に書きなぐった詩なのではないかな。実体験を元にして、とはあまり考えたくない。
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