新型肺炎のニュースやオイル・ショックばりの買い占め運動に気が滅入るが、こういう気が焦る時にこそ無価値なもの、無駄なものに触れる時間を作るのは大事だ。
文化活動をして、心の平静を取り戻そう。
「音楽に価値なんてない」とアメリカの有名なフォークシンガーが言ったことだし、ニュース番組を消して家に鎮座しているドデカホーンのスイッチを入れよう。
さて、ハル・ブレインはアメリカのスタジオ・ミュージシャンで、数多くの有名な録音に参加している。
ロネッツのビー・マイ・ベイビーのあの有名なイントロも、カーペンターズの「遥かなる影」の抑えの利いたドラミングも、ビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか」の多幸感あふれるビートも、全部ハル・ブレインの仕事である。
そんなポップスのリズムの歴史そのものみたいなミュージシャンだが…。
リズムの歴史そのもの、と書いていて思い出したが、漫画あしたのジョーで、葉子がゴーゴーを踊るシーンだったと思うが、相手はカーロス・リベラだったかな?「あなた、リズムそのものよ」みたいなセリフを言っていて、ずいぶん気の利いた褒め言葉を言うなあ、と感心した覚えがある。
置いといて。
ポップスのリズムの歴史、ドラマーのハル・ブレインが、実は日本のミュージシャンの録音にも参加している。
その一つが島倉千代子の「愛のさざなみ」。
ジャケットがサイケデリックで良い。
島倉千代子の15周年を記念して作られ、作曲家の浜口庫之助の提案でロサンゼルスでの録音が行われた。
浜口庫之助による、神々しい完成度の1曲で、なかにし礼による美しい歌詞もすばらしい。
”この世に神様が 本当にいるなら あなたに抱かれて 私は死にたい”
うっとりとため息が出る。
演奏のクレジットは、ボビー・サマーズと彼のグループ名義となっているが、実際はレッキング・クルーというセッション・ミュージシャン集団が演奏しており、ハル・ブレインはその一員。「レッキング・クルー」の名付け親でもある。
アメリカの音と、島倉千代子の節回しが妙にマッチしており、静かな感動を呼ぶ名曲、名録音である。
B面「月のためいき」のジャケットデザインも色違いで素敵。曲は静かなマイナー調3拍子歌謡曲で、なぜかベースの音がひずんでいる。
アラフォーにとってのおチヨさんは、「出前一丁」と「人生いろいろ」、この2つで、それも思い出深いのだが、「愛のさざなみ」と「からたち日記」の2曲に出会えて本当に良かった。
チヨ、チヨ、チヨ、出前いっチヨ。
もう1曲ご紹介。
江利チエミの「旅立つ朝」。「朝」は、あした、と読む。こちらもロサンゼルス録音。
作曲が村井邦彦で、さきほどの浜口庫之助のドメスティックな曲調とは打って変わって、洋楽的で洗練された曲。
作詞の保富康午は、「大きな古時計」の訳詩や、「ドカベン」、「科学忍者隊ガッチャマン㈼」などアニメ関連の作詞で有名。
ドラマーはハル・ブレイン。イントロのタムの音を聞くだけで私は胸が躍る。
”彼のドラムは、タム・タムが8ケあり、楽器のようによく歌います。”と書かれているが、そもそもタム・タムは楽器であろう。「ミュージシァン」という表記はなんかいいね。
ジョー・オズボーンのベース・ラインも楽しげに上下していて、リズムの揺れが心地いい。
江利チエミの朗々とした歌声も素晴らしい名曲。
ハル・ブレインは2019年3月11日に90歳で大往生を遂げた。
そろそろ彼がいなくなって1年が経つ。
レッキング・クルーを題材にした映画もあるので、そちらを鑑賞して彼を悼むか。
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