歌謡曲に限らないが、エロティックな象徴としてしばしば果物が描かれることがある。
果物から連想されるのは、甘い、酸っぱい、渋い、果汁、果実、南国、熟す、たわわ、丸い、みずみずしい、フレッシュ、旬、などなど…これだけ並べるだけでも十分に想像を掻き立てられる。作詞家にとって「果物」は使いやすいフレーズなのかもしれない。
歌謡曲の作詞家たちが、どんな果物でどんなヤラシイ表現をしているか、見ていきたいと思う。
まず思いついたのが、これだった。浜口庫之助作曲の「黄色いさくらんぼ」。オリジナルはスリー・キャッツだが、ゴールデン・ハーフがデビュー曲としてカバーした作品でもある。カバーした際にさくらんぼがサクランボのカタカナ表記になっている。カタカナのほうがよりスケベに見えるのは気のせいだろうか。
オリジナルのスリー・キャッツが「黄色いさくらんぼ」 をリリースしたのは1959(昭和34)年。「体当たりすれすれ娘」という松竹映画の主題歌として25万枚のセールスを記録している。
締め切りが翌日、という急な発注に、浜口庫之助と星野哲郎が一晩で書き上げたというからすごい話だが、その勢いがあったからこんな歌が世に出たのかもしれない。ええい、出しちゃえ、みたいな。
放送禁止すれすれの要注意曲としてマークされたらしいが、「♪つまんでごらんよ ワン しゃぶってごらんよ ツー 甘くてしぶいよ スリー」…これアウトじゃないのか?
ゴールデン・ハーフは爽やかお色気路線で、果物が登場する歌をよくカバーしている。「ゴールデン・ハーフのバナナ・ボート」とか、「レモンのキッス」とか、「メロンの気持ち」とか。この「メロンの気持ち」、「カモナマイハウス」のヒットでおなじみ、ローズマリー・クルーニーのカバーなのだが、ものすごくかっこいい。
ゴールデン・ハーフ メロンの気持ち 1974 / Corazon De Melon
これの歌詞は、私(メロン)は外側は青くて固いけど、美味しいから、畑に転がっている私を取りに来て、というだけの歌詞。まあ遠回しに私を食べて、と言っているからエロではある。
田舎のおぼこ娘の悲痛な叫びにも聞こえる。
ドラムが叩きまくってて小気味良い。ハイハットプレイが超人的。
「黄色いさくらんぼ」が昭和30年代のセンセーショナルなセクシー・ソングなら、昭和40年代のそれは山口百恵の「青い果実」だ。
「♪あなたが望むなら 私何をされてもいいわ」という衝撃の歌い出し。歌詞は千家和也。
「♪いけない娘だと噂されてもいい」とまで歌っているので、いけないことを「あなた」が望んでいるのは確かだ。いけないことって何だろうね。おじさんには見当もつかないや。
青い果実というタイトルのフレーズが、歌詞の最後まで出てこないのが憎い。果実が何なのかも明言されない。この辺の想像を聞き手に委ねる作り方が本当にうまい。いい歌詞ってのは、何でもかんでも説明しないのよ。
お次。果物縛りのお題だが、今度はトマト。個人的にトマトに色気を感じたことはないが、桜田淳子の「気まぐれヴィーナス」では、かなりセクシャルに描かれている。作詞は阿久悠。
「♪去年のトマトは 青くて固かったわ だけど如何 もう今年は赤いでしょう 味もきっと くちびるとろかす筈よ こんな言葉 突然いわれたら あなたはどうしますか プピルピププピルア」
トマトのくだりよりも、「プピルピププピルア」と突然いわれたらどうしよう、という思いが強いが、この「プピルピププピルア」はマリリン・モンローの「ププッピドゥ」からヒントを得ているので、もうセクシー路線全開なわけだ。
私はリアルタイムじゃないので分からないが、彼女が中3の頃、牧歌的な「わたしの青い鳥」を歌っているのを見ていて、しかし年齢に沿って歌う内容がだんだん大人びてきて、そしてこんな色っぽいことを歌うようになるのを見たとき、どんな気分なんだろう。
長期的に、年齢に沿ってアイドルを育てるやり方、また流行んないかなあ。
お次。歌謡曲というかロックバンドなのだが、ムーンライダーズの「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」。これもまたどすけべな歌。
昔、「巨泉の使えない英語」という番組で使われていたのを思い出す。
マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン / ムーンライダーズ
これはもう、冒頭で触れた「黄色いさくらんぼ」への返答歌であろう。
「♪君のことチョットだけつまむなら 僕のハートはドキドキ
君のことチョットだけしゃぶるなら 僕のポケットはもうハレツしそう」
作家間における、品のいい下ネタの応酬、みたいな。いや、下ネタに品のいいも悪いもないか。
作詞家、攻めてるなあ。センセーションを巻き起こすために、話題作りのために、という目的ありきのことかわからないが、NGにならないようスレスレのラインを狙って、性を歌にする。職業作家の腕の見せ所だ。フルーツはそのためのアイテムとして欠かせないものだったのだろう。
追記;
松田聖子の「ガラスの林檎」、あれはベッドにインしている時の情景だと思うが、全然やらしさがなく、静謐な美しさが際立っているのは、「林檎」という果物のセクシーさを「ガラス」が打ち消しているからか。曲調もどこかひんやりしているしね。
見事なり、松本隆。